まるで結婚の申し込み。思い出ごと引き継いで走るトヨタ エスティマ
2022/12/05

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
▲アタシ社代表のミネシンゴさんは神奈川県三浦市三崎を拠点に出版社、美容室、雑貨屋、古着屋、コワーキングスペースを営んでいる次世代の編集者。様々な事業に取り組み、全国を飛び回るミネさんの愛車はトヨタ エスティマ(初代)。実はこの車、「もらった」もの。どういうことなのだろうか?SNSを通じて、探し求めていた「愛車」に出会う
2年前、愛車のシトロエンに不具合が出て次の相棒を探していたミネさん。今後は仕事の都合で荷物を積み込むことがさらに増えるため、もうちょっと余裕のあるものに乗りたい。ただトラブル続きの旧車は嫌だなと考えて導き出されたのが、国産ミニバンという選択肢。
「ものを買うときにはまず条件に当てはまるものを調べ上げて、その中から消去法で決めていくんです。サイズも問題ない。デザインもピカイチ。国産のミニバンを並べてみたときに、これしかないと思いました」
それが、初代エスティマ。後期ものは街でも見かけることはあるけれど、前期は30年以上前のモデルということもあり、ほとんど目にすることはない。シグネチャーカラーのレッドならなおさらだ。
目当ての車種が決まったミネさんは中古車情報をディグる日々。しかし、やはり目当ての「初代」「前期」「レッド」は見つからない。たまに出てきたと思ったら、走行距離10万kmをゆうに超える物件ばかり。そのうえ予算も軒並みオーバー。諦めかけたミネさんが、いちるの望みをかけて「初代エスティマを探してます」とツイートしたところ、東海地方に住むある青年から一通のメッセージが。
その内容は「父が乗っていたエスティマが車庫に眠っています」というもの。思わぬところから流れ込んできた朗報。ミネさんはすぐに連絡を取り合い、静岡県内に住む彼の元へ向かうことに。

「お金はいらないから、大切に乗ってほしい」前オーナーから引き継いだエスティマへの思い
初めて彼の元を訪れた日、ミネさんはエスティマと念願の初対面を果たした。驚くほど状態が良く、一目見て大事に乗られていたことがわかるほどだったという。もちろん、カラーは探し求めていたレッドだ。そして彼から、このエスティマは父が新車で購入し大事に乗っていたこと、家族の思い出が詰まった大切な車であること、しかしここ数年は乗る機会が減っていることを聞いた。
その日は残念ながら持ち主であるお父さまに会うことはできず、ミネさんは三崎に帰ることに。
後日、息子さんから「お父さんにミネさんの話を伝えました」と連絡が届いた。その内容はこうだ。この車が好きならば、譲ることも検討したいと考えている。ただ、家族の総意として見ず知らずの人に車を譲るなんて大丈夫なのか。
それから、ミネさんは3度にわたって静岡県に足を運んだ。もちろん、エスティマを譲り受ける交渉のためだ。ご家族に会い、エスティマへの思いを伝え、信頼関係を築いていった。そのミネさんの姿勢に胸を打たれた息子さんも、ご家族に説得を試みてくれた。
そして、やっとお父さまに会うことがかなったのは3度目の訪問時のことだった。2人は初対面で杯を酌み交わしたのだという。
エスティマがいかに素晴らしい車で、なぜミネさんが魅了されたのかを伝えると、お父さんはこれまで乗ってきた車の話や、家族で出かけた思い出のドライブについて話してくれた。
その夜、ついにミネさんの思いは届いた。「大切に乗ってやってほしい」その言葉とともに、その場で譲り受けることが正式に決まったのだ。
「車について語る言葉の節々から、大切に乗られていたことがすごくよくわかるんですよ。背筋が伸びますよね。本当にうれしかったです」
ミネさんが車の支払いの話を切り出したところ「お金はいらない」と、お父さんが一言。そんなわけにはいきませんとミネさんが食いさがるも「何度も足を運んでくれて、熱心に話をしてくれた。その思いで十分」と言ってくれたのだそうだ。お金には換算できない思いが、そこに確かにあったのだ。まるで結婚の申し込みのような話ではないか。こうして、無事に車は引き継がれていくこととなった。
▲きれいに保管されていた新車時のカタログ。当時のキャッチコピーは「天才タマゴ」。こちらも一緒に引き継がれることに初代エスティマは“モテる”?
念願かなって手に入れた初代エスティマはピカピカな見た目に加えて、走りも良好だという。
仕事で時には「500kmの道のりを走ることもある」というミネさん。しかし、走っていて、不満や不安を感じたことは、これまで一度たりともない。アタシ社に勤める大学生のスタッフも、「ほんとに30年前の車なんですか?」「なんでスライドドアが片側なんですか」と、この古くて格好いい車に興味津々だ。そして、エスティマに乗っていると、出かけた先々で声をかけられることが増えたのだという。
「ガソリンスタンドやサービスエリアでよく声をかけていただくんですよ。初代じゃないか! しかも赤! いいねえ、って。多くの人に愛された大衆車ならではですよね。エスティマがこんなに“モテる”車だとは思わなかったですね」
その多くは50代以上の方なのだという。昔乗っていた車を、今も大切に乗っている若い人がいる。その事実がうれしくてつい声をかけてしまうのだろう。
「発売から30年。エスティマに乗ってきた人はたくさんいるはずです。僕と前オーナーの家族だけではなく、当時を生きた人の頭の中にこの『天才タマゴ』がある。きっと何人もの人を乗せて、いくつもの思い出をつくってきたはずです。そんな多くの人々の記憶や思い出がこの車には蓄積しているんですよ。本当に愛されていた車なんだなということを手にしてみて感じました。」
▲気分転換に車内で仕事をすることも。2列目シートは回転してオットマンに引き継いで行くことの豊かさを教えてくれた車
人は車を乗り継いでいく。古い車を廃車にすることは簡単だ。その方が経済的だし、安全性能が充実した車に乗ることができる。だけど、中古車でしか感じられない魅力があるのだとミネさんは話す。
「車の選び方って人それぞれですよね。経済性とか、デザインとか、遊び方で選ぶのが一般的じゃないですか。でも、他人の思いを引き継いで車に乗るのも悪くないなと思うんです」
思いを引き継ぐ、というのは、ミネさんがこれまで大事にしていた価値観でもある。アタシ社の拠点となっている「本と屯」は、三崎の地で93年間の歴史がある古い家屋をリノベーションした書店だ。その街に根付いた場所をミネさんが引き継ぎ、若い世代からも愛される場所に生まれ変わったのである。
「僕がお店を引き継いだように、この車を引き継いで生まれた縁があるんです。静岡方面にいくと、前オーナーご家族の顔が浮かんで、エスティマを見せに行かなきゃなって思うんです。そういう縁を大事にしていきたいんです」
実際、前オーナーとのお付き合いは今も続いていて、何度かエスティマの「顔を見せに行った」ことがあるのだという。コロナ禍で足が遠のいてしまっているが、落ち着いたらまた行かなきゃとミネさんは笑う。
また、引き継ぎに尽力してくれた息子さんも、車の引き渡し前から三崎に足を運んでくれたのだという。「僕もミネさんみたいにお店を開きたいんです」と言っていたのだが、コロナ禍を経て、静岡でその夢を実現したそうだ。
車がつなぐ縁は、どこまでも広がっていく。

▲古民家に居を構えるアタシ社。カフェで蔵書室でもある「本と屯」を兼ねていて観光客でも気軽に立ち寄れる
▲元美容師という経歴を持つミネさん。「本と屯」の2階では美容室も経営している
▲アタシ社で発行している『髪とアタシ』は、単なるヘアカタログとは異なり、髪を切り口として時に哲学的なテーマも扱う美容カルチャーマガジン
ミネシンゴさんのマイカーレビュー
トヨタ エスティマ(初代)
●年式/1991年式
●購入金額/0円
●年間走行距離/約15,000km
●マイカーの好きなところ/90年代の先進的なデザイン、独立キャプテンシート、なによりもまん丸な外観
●マイカーの愛すべきダメなところ/燃費が悪い、トルクがなくて加速しない(笑)
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/90年代デザインの国産車が好きな人、先駆的なデザインが好きな人、大人数で楽しくお出かけしたい人、車の中でゆっくり仕事がしたい人
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