20数年ぶりに買い直した“あの頃”と同じ車、BMW Z3
2020/10/18

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
初めてのZ3、出合いと別れ
若き日に乗っていた車の同型車を、20数年後にあらためて買い直す。それだけでも十分に浪漫(ロマン)あふれる話ではある。
だが横浜市に住まうYさんご夫妻のケースは、浪漫という言葉だけにはとどまらない。
「恋人同士だった時代に乗っていた2シーターオープンカーの同型車を、4人の子供を育てたのちに改めて買い直す。そしてお互い40代となった今、週末の“デート”に使う」
……それはもう浪漫というよりも「ロマンチック街道を大爆進!」とでも表現すべき、甘酸っぱくも超絶ステキな行為だと言えよう。

Yさんが“最初の”BMW Z3を買ったのは1997年のこと。
就職前の短いモラトリアム期に、当時の恋人すなわち現・奥さまと「たまたま」輸入車フェアのようなイベントを見に行った際に、ひとめぼれした。
「うわっ、なんだこのカッコいい車は! ということでシビレてしまったのですが、当時の私は大学の薬学部を卒業した直後。薬剤師の国家資格に関しては『合否の発表前』という状態でしたので、いわば無職でした。そのため、輸入車フェアのブースにいたBMWディーラーの方には『就職が決まったらこれ、買いに来ます!』とだけ告げたんです」
そう語るYさんはその後、国家試験には当然(?)合格していることが確認され、そして薬剤師として正式に働き始めたのち、宣言どおりBMW Z3を購入。
奥さまを助手席に乗せ、当時暮らしていた新潟県内や近隣の各所をBMW Z3で巡った。
「それは本当に素晴らしい、幸せな時間でした」と、Yさんは言う。
だが幸せは、そう長くは続かなかった。

購入から約2年半がたった1999年11月のある日、新潟市内は例年にない異例のタイミングでの積雪を記録した。それも短時間で「けっこうな降り方」をする初雪だった。
降雪前に入ったレストランで食事中だったYさんカップルは、サマータイヤのBMW Z3でおそるおそる帰路についたが、やはりだめだった。
かなりのノロノロ慎重運転だったにも関わらず滑ってしまったBMW Z3は、結果として廃車になった。
一度手放してから、未練タラタラでした
その後ふたりは結婚。ともに「Y」という名字を名乗り、4人の子宝に恵まれた。
そして車は、6人家族が使うにふさわしい先代のトヨタ アルファードを選択した。
「アルファードには何の不満もないんです。というか、今もその先代アルファードに家族で乗ってますし。でもそれはそれとしてこの20年間、僕はZ3のことをずっとずっと思い続けていたんですよ。片時も忘れたことがないんです」
手放したくて手放したのならいざ知らず、そうではなくあるとき突然、不可抗力的に訪れてしまったZ3とのお別れ。
その別れをYさんは悔やみ続け、悔やむと同時に「もう一度、Z3を買おう」ということで、実は仕事と子育てのかたわら、Z3の中古車検索もライフワークのように行ってきた。
だが奥さまが――というか正確には状況が、“それ”を許さなかった。
夫婦ふたりがいて、4人の子供がいて、そしてアルファードに加えてもう1台「2人乗りの古いガイシャ」を所有するというのは、たしかにY家にとって現実的な選択とは言い難かった。
しかし時間の経過とともに、状況というのは若干変わることもある。

小さかった長女も今や高校2年生となり、5歳の末っ子くんの面倒をいろいろと見てくれるように成長していた。
さらに、やや古くなってきた先代アルファードから乗り替えるべく3列シートの輸入車をディーラーまで見に行ってみると、「ピンとくるものが見つからないな……(これだったら、今乗ってる先代アルファードの方がいいかもな)」という結論にもなった。
そしてそのとき、奥さまはぽろっと言った。
「3列シートの輸入車を無理に買うぐらいなら、まだ普通に使える今のアルファードに乗り続けて、あなたがずっと欲しい欲しいって騒いでるBMWのZ3を増車した方がいいよね」
奥さまは「それを言った記憶がない……」とのことだが、Yさんに言わせれば、たしかにそう発言したらしい。
そしてYさんは、その発言というか機を逃さなかった。
「あ、オッケーなの? なら買うね!」ということで、以前から目星をつけていた中古車販売店数軒をすぐさま回り、結果として大阪の販売店で、かなりコンディションの良い個体を見つけることができた。
2001年5月に発売された「エディション3」という特別仕様車だ。

今年6月に契約を済ませた走行6.6万kmのBMW Z3 2.2i エディション3は7月に納車された。
▲シートなどの内装や外装のコンディションはかなり良く、前オーナーが大切に乗っていたことがうかがえる
以来、ふたりは毎日のようにZ3の運転席と助手席に乗り込み、恋人時代に巡った同じ場所をもう一度、かみしめるかのようにドライブしている。Z3の購入というか増車に難色を示していた奥さまも、今では20年ぶりのZ3の魅力に夢中だ――というのはすみません、筆者の創作です。
実際のYさん夫妻はいまだ仕事も子育ても忙しく、ふたりでZ3に乗れるのは土曜日だけ。
しかも土曜日も、夕方の18時半までには5歳の末っ子くんを保育園まで車で迎えに行かねばならないため(こればっかりはさすがに高2の長女にお願いすることはできない)、Z3で走って行ける半径は限られている。
「まぁ忙しいんですけど、土曜日だけは必ずZ3で“ふたりの時間”を作るようにしています」とほほ笑む奥さまと、積年の夢をかなえたというか無念を晴らしたYさんを乗せて走る2001年式のBMW Z3。
それは、18時半までには家に帰らねばならない宿命をもった“かぼちゃの馬車”なのかもしれない。
だがそれでも19年落ちのZ3は、どんなにピカピカで多機能な高年式オープンカーよりも美しく光り輝いているように、筆者には見えた。


Yさんのマイカーレビュー
BMW Z3(最終後期型)
●購入金額/約85万円
●年間走行距離/約5000㎞
●マイカーの好きなところ/FR、コンパクトボディに、2.2Lの直列6気筒で独特の加速を楽しめる
●マイカーの愛すべきダメなところ/ボーボーうるさいところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/攻める車ではないので、のんびりと開放的なオープンドライブをしたい方へ

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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